ファツィオリ日記

阿久根市民交流センター 風テラスあくね

阿久根市民交流センター 風テラスあくね

採用ピアノ  ファツィオリF278
住所  鹿児島県阿久根市塩鶴町二丁目2番地
施設  ホール(最大定員541席)、屋外広場、交流室5室ほか)
設置者  阿久根市
指定管理運営  阿久根市生涯学習課

阿久根市民交流センター 公式HP

鹿児島県北西部、東シナ海沿岸に位置する阿久根市は、温暖な気候を利用した農業・水産業が盛んな自然豊かな街。ボンタンなどの柑橘類、ウニや伊勢海老などの海の幸も豊富で海水浴や釣りのメッカとしても知られている。2018年にオープンした阿久根市民交流センター(通称「風テラスあくね」)は、特徴あるデザインと優れた音響とともに、九州の公共ホールとしては初めてファツィオリを導入したことで全国的に知名度を上げている。オープン以来、企画・管理・運営に携わってきた岩切氏にホールとファツィオリについて伺った。

阿久根市生涯学習課 自主文化事業等推進
岩切 和彦(いわきり かずひこ)氏

独自の設計と優れた音響を誇る
「風テラスあくね」

「風テラスあくね」は、540名席の中規模の多目的ホールの他に、打ち合わせや研修室として利用可能な5つの交流室を備える市民のための文化施設である。建物は、その名のとおり風が通り抜け光が差し込む開放的な外観である。「非常に珍しい非対称のデザインは、音響に有利であるだけでなく、目にも心地よいものです」と、話をしてくれた岩切氏もホールと同じように明るく爽やかな雰囲気の持ち主であった。

「このホールは、市民ワークショップを何度も行い、様々な使い方を想定して設計されました。例えば、ロビー自体がパフォーマンスの場として使えるようになっています。また、ロビーの先が舞台になっていて、ロビーの扉を開けると舞台に出られるという、ユニークな設計です」

言葉での説明ではイメージを持つのが難しいが、実際に見せてもらったところ、確かにロビー正面奥の扉を開けると目の前はステージ、その先に客席が広がる。

「この扉は特別な演出効果があります。演者が舞台正面から登場すると客席が湧きますね。通常、お客様はロビーの右奥の入り口から舞台下手に設けられている花道を通って客席に着きます。花道は、ステージの一部としても客席としても利用されます」

花道の壁側は一面ガラスで、黒いカーテンを開けると季節や時刻の移り変わりを感じることができる。客席最上部にもガラスが使われており、自然光をふんだんに取り入れた明るいホールは、風光明媚な阿久根市のイメージそのものだ。さらに、一階席上手から二階席につながるもみあげ席と舞台を取り囲むバルコニー席が、客席と舞台の一体感を生み、親近感が感じられるつくりになっている。


岩切氏は、20代の頃から東京で舞台の照明・音響・大道具など舞台制作に携わり、有名歌手の舞台監督や企業イベントに長年携わった後、故郷の阿久根市でホールの建設計画の時から参画、現在も企画から管理運営に携わっている。ホールの設備面で、氏が強調していたのは音響の良さだ。

「風テラスあくねは、永田音響設計さんが音響設計から一連のコンサルティングに携わっていて、とにかく音の響きが良いホールです。もみあげ席の壁側が音響反射板としての機能も果たしていて、ホール空間自体が細部まで音響効果を計算されたボックスになっています。多機能ホールではありますが、アコースティックの音にもとても向いていると思います。九州の中規模ホールでは有数の音響の良さと自負しています」

プロピアニストの評判で決めたファツィオリ

九州のホールでは初のファツィオリ設置ホールとなった「風テラスあくね」。どのような経緯で選定されたのだろうか。

「私もピアノ選定委員会のメンバーでしたが、ファツィオリの存在を知りませんでした。ヤマハ、カワイ、スタインウェイが主流なので、そこから選ぶことになるだろうと思っていました。ただ、工場やショールームで弾き比べて選ばないとピアノの個体差があるだろう、と話が上がっていた頃に、やはりピアノ選定委員のジャズピアニスト松本圭使さんがファツィオリを知っていて、東京のショールームで試弾してくると。帰ってきて、開口一番『岩切さん、あれは絶対にいい!』とすごい勢いで言われました」

「そこで、私も知り合いのプロのピアニスト数名にファツィオリのことを尋ねてみたのですが、返ってきたのはいい反応ばかりでした。弾いたことのない人も『いいらしいですよ、弾いた人に聞くとすごくいいと言いますよ』と。九州では初めてのファツィオリとなりますし、ファツィオリジャパンからのバックアップも決定の後押しとなり決まりました」

阿久根市では、ふるさと納税の返礼品としてファツィオリの演奏体験や市民向けの試弾会を行うなど、積極的にファツィオリの存在を市内外にアピールしている。

「ピアノ愛好家の方からもプロの方からも、『音に引きこまれる、やっぱり違いますね』と絶賛されます。ファツィオリがあるから阿久根市に来てくれる演奏家も多いですし、録音で使う方や、最近では国際ピアノコンクールに応募する方が練習や録画のためにいらっしゃいます。ルービンシュタインやショパンコンクールでファツィオリでの優勝者・上位入賞者が次々出てきていますし、ピアニストなら一度は弾いてみたいピアノではないでしょうか」

阿久根市から1時間半ほどかかる鹿児島市から、試弾会や練習に来るケースが半数もいるそうだ。「ファツィオリにはそれだけの価値があるし、今後さらに演奏機会を求めるピアニストが増えていくでしょう」

オープンから4年目を迎えた「風テラスあくね」。最後に、今後の活動について聞いた。「大人には癒しを、特に子供たちに感動や驚きを与えるものを提供していきたいです。阿久根は共稼ぎの家庭が多く、子供達を文化的な場に連れて来るゆとりが少ないのが現状です。今は、パソコンや携帯電話で簡単に娯楽を手に入れられますが、感受性が強い子供時代に本物の音楽や芸術に接することはとても大切な経験です。音楽ってすごいな、気持ちいいなと思う経験。そういう何かがあれば、大人になった時に生活にリズム感が生まれたり、ハッピーな気分にもなれます。本物との出会いは人生が変わるくらいの大きな経験です」

岩切氏の子供達への真摯な想い、演者や観客への責任感とホールへの愛情、そしてホールの評判が、有名アーティストが阿久根を訪れる理由であろう。これからも、私たちは様々な場で「風テラスあくね」の名前を目にすることになりそうだ。

阿久根市公式チャンネル 「アクネ イイネ トリップ」

第13回 リスト国際ピアノコンクール・ユトレヒト(リスト・ユトレヒト)

レオノーラ・アルメリーニのコンチェルトのリハーサル時に審査員席より舞台を撮影


「リストコンクール」という名称の国際ピアノコンクールは世界にいくつかありますが、オランダのユトレヒトで開催される当コンクールは、1986年(リスト没後100年)に、「リスト・ユトレヒト」という名称に変更され、現在に至ります。

今回は新たな形式をとり、出場するピアニストの現時点での実力を競うというより、プロフェッショナルに磨きをかける側面が強いプログラムになっています。予選で選び抜かれたピアニスト達は一年近くをかけ、マスタークラスや音楽祭への参加を通じて彼らの音楽性を世界中の聴衆に披露しながら成長の機会を提供されます。

第13回リスト国際ピアノコンクール・ユトレヒトは、5段階のプロセスを経て行われています。

  • 第1次審査は、オンラインによるビデオ審査で、40名が選出されました。
  • 第2次審査(2022年1月6日-9日開催済み)は、ユトレヒトの会場で各自40分のリサイタルを行いました(YouTube公式チャンネルで2次審査の演奏を視聴できます)。ここでは、最終的に出場した35名から10名が選出され、本年9月のセミファイナルの審査に進みます。
    なお、当ラウンドの演奏は全てファツィオリF278で演奏されました。

    セミファイナル進出者10名(氏名・国籍・誕生年):
    • 黒木雪音 日本 1998年
    • Viktoria Baskakova ロシア1997年
    • Minkyu Kim 韓国1995年
    • Tamta Magradze ジョージア1995年
    • Matyáš Novák チェコ共和国 1998年
    • Yeon-Min Park 韓国1990年
    • Leonardo Pierdomenico イタリア1992年
    • Vitaly Starikov ロシア1995年
    • Derek Wang アメリカ1998年
    • Kajeng Wong 香港 1990年
  • 第3段階として、セミファイナリストは、コンクール主催の「アカデミー」(6/27-29)に参加し、リストに精通した演奏家の指導を受けます。
  • セミファイナル(9/22-26)となる第4段階は音楽祭として行われ、各自4回の演奏機会が提供されます。
    • リストのオリジナル作品のソロリサイタル (45-50分)
    • リスト編曲によるシューベルト歌曲 (55-60分)
    • リストおよびシューベルトの室内楽作品、各一曲(6ヶ月以上事前に各出場者に作品が割り当てられる)
    • リスト及びシューベルトの歌曲とMathilde Wantenaar(マティルデ・ワンテナール)作曲の委託課題曲 (20分)
  • ファイナルラウンド (9/29)には、10名のセミファイナリストから3名のファイナリストが選ばれ、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団と課題曲「リスト編曲ピアノと管弦楽版シューベルトのさすらい人幻想曲」を協演します。そして、優勝者と第2位、3位が発表されます。

セミファイナルラウンド以降は複数メーカーのピアノから選定できる予定ですが、第2次審査はファツィオリピアノ一台のみが提供されました。

ここでは便宜上コンクールの名称を使用しましたが、実際は、タイトルから「Competition」という単語は外され、「Liszt Utrecht」が正式名称となっているほどピアニスト育成に重きを置いた内容となっています。出場者には出演料などが支払われるなど、様々な面で他のコンクールとは異なっています。
詳細に関してご興味がある方は、公式サイトの説明動画をご覧ください。

Liszt Utrecht 2022 (YouTube 英語)

北上市文化交流センター さくらホール

北上市文化交流センター さくらホール
https://www.sakurahall.jp

採用ピアノ  ファツィオリF278
住所  岩手県北上市さくら通り二丁目1番1号
施設  大ホール(最大定員1,503席)、中ホール(471席)、小ホール(264席)
 アートファクトリー21室(ミュージックルーム、多目的室など)
設置者  北上市
指定管理運営  一般財団法人北上市文化創造

岩手県内陸中部に位置し、北上川と和賀川の合流地点にある自然豊かな街、北上市。民俗芸能が盛んな地域でもあり、世代を越えて文化芸術への情熱は様々な形で受け継がれ、花開いている。2003年に開館した北上市文化交流センターでは、市民の文化芸術活動に設備と運営の両面で最大限の支援を提供し、ファツィオリを希少な地域資源という位置付けで意識的に活用している。オープン間もない頃から企画運営を担当している千葉氏に、地域に愛されるさくらホールとホールの個性にもなっているファツィオリについて伺った。

一般財団法人北上市文化創造 企画事業課
千葉 真弓(ちば まゆみ)氏

文化芸術活動が根付いている北上の地域性

東京育ちという千葉氏に北上地域の特徴について尋ねた時に、真っ先に上がってき言葉が「民俗芸能」だった。

「北上は民俗芸能がとても盛んな土地です。東北の厳しい自然や不条理な事柄への思いを祈りに変え、皆で芸能を行うことで支え合うという考え方があります」

北上市内では100を超える団体が「鬼剣舞」や「鹿踊」などの伝承活動を行なっており、吹奏楽や合唱コンクールで全国トップの学校を輩出するなど、地域全体で芸能・文化芸術への熱が高く、それをサポートする意識が地域社会に浸透している。そのため、前身の北上市民会館の閉館にあたり新たに「北上市文化交流センターさくらホール」の建設が決定された時には、市民によるワーキンググループが基本設計の段階から参画した。

「当時の市民によるワーキングループの意見により、休日・夜間も利用できる施設、カラオケボックスのように当日来て空いている部屋を1時間単位で安価で借りられる練習室があったらいい、などの意見が実際に取り入れられ、現在も民意の発想で柔軟な運営を行なっています。大中小のホールの他にアートファクトリーと呼んでいる部屋が21 室もあり、市民の創作活動を支援できる施設が充実しています。他にも、ラジオ番組を放送しているサテライトスタジオや楽器を預かる楽器庫があります。共用ゾーンのさくらパークは、用がなくても市民が立ち寄って憩える場所になっており、保育園児が散歩したり、学生が勉強したりと気軽にご利用いただいています」

市民の文化芸術活動拠点「さくらホール」

さくらホールは、定休日がなく夜は10時まで1年を通じて利用可能となっている。ホールの音響や貸出用の楽器も一般的なものからマニアックな物まで、グランドピアノだけでも4台揃えるなど、市民の創作活動への支援には理想的な体制である。

さくらホールのユニークさは、施設・設備の充実だけではなく自主事業にも見られる。自主事業は、クラシック音楽や伝統芸能など、普及啓発を必要とする公演を中心に企画されている。また、市民の芸術に触れる機会を広げ、公演への来場者増につなげるために、関係するレクチャーやイベントを開催するなど、公演ごとに工夫を重ねて市民に提供されている。

「松竹大歌舞伎を招聘した時には、地元の歌舞伎団による桜並木の花魁道中で公演の告知を行い、そこに同ホールの男性職員にも参加してもらいました。鬘をかぶったり化粧を施す様子を撮影し、歌舞伎の面白さや男性が女性に扮装するコツなどを紹介することで、市民の皆さんに歌舞伎公演とさらには地歌舞伎にも興味を持っていただければと思って行いました」と、楽しそうに話す千葉氏。顔馴染みの職員が、歌舞伎姿になる様子を動画で見て楽しみながら、大歌舞伎の公演日を待ち侘びる人々の姿が浮かんでくる。

「自主事業で著名なピアニストのコンサートも行っています。公演の1ヶ月前くらいにファツィオリジャパンの調律師に来てもらい、市民に向けてファツィオリについてのレクチャーと他のピアノとの弾き比べのイベントを開催しました。公演を単独で行うよりも沢山の方に楽しんでいただけますし、来場者も増えます。さらに北上にファツィオリがあることを多くの方に知っていただけます」

ウラディーミル・アシュケナージと息子のヴォフカのデュオコンサートを開催

大学卒業まで東京で過ごした千葉氏は、音楽大学でアートマネジメントを学び、その実践の場として、専門化が進んで先進的な取り組みを競う都会よりも地方の公共ホールに魅力を感じたという。音楽も歌舞伎もお笑いライブもジャンルを問わずに携わり、市民の日常生活を豊かにする活動に惹かれるという。千葉氏の話の中で「市民にとって何がいいのか」という言葉が幾度となく登場した。穏やかな語り口に隠された千葉氏の静かな情熱が感じられ、20年近く前に東京から北上に移ってきた時の志は今も変わっていないことが伝わってくる。

ファツィオリは希少な地域資源

2003年のさくらホールのオープンにあたり就任した千葉氏だが、グランドピアノの選定はすでに前年に行われていたという。当時の資料や当事者の話からその経緯を教えてくれた。「さくらホールには大中小とホールが3つあるので、同時にピアノのコンサートを開催できるように、3台以上のピアノを持つことになりました。旧会館から所有していたヤマハ2台に加えて、外国製フルコンを2台増やすことが決まり、ピアノ選定ワークショップを経てピアノ選定および使用管理検討会が設置されました。選考委員が滋賀県栗東芸術文化会館さきらへの視察でファツィオリを含めて外国製3メーカーの試弾を行い、誰もが知っている1台としてスタインウェイと、もう1台にはファツィオリが選定されました」

千葉氏は、市民有識者による選考委員会が、当時ファツィオリを選んだことに今更ながら驚いていると続けた。

「先日のショパンコンクール(2021年開催)で優勝者が選んだピアノということで、ファツィオリへの注目が高まりましたが、2002年の時点で地方の公共ホールにファツィオリを選定した当時の選定委員の方々の先見の明には本当に驚いています。私は地方のホールに同じメーカーの外国製ピアノが2台、3台と置かれることには疑問を感じています。当時の選定委員の方々は、2台の外国製ピアノのそれぞれの役割を考えた上で、その1台にファツィオリを選んでくれました。この考え方はとても大切だと思います。ファツィオリが設置されたことで、さくらホールには音楽的にも地域の活性化にも良い効果が表れています」

民俗芸能という長年培われてきた下地があり、文化芸術に対する情熱とそれに取り組む人への理解が根付いている北上市では、当時まだ知名度の低かったファツィオリの選定も「弾いてみて良いピアノ」というシンプルな理由でスムースに行政に受け入れられたという。

さくらホール所有のF278は、ピアニスト、アルド・チッコリーニが選定し、「ミケランジェロ」と命名したサイン入りのピアノだ。

「実は、ファツィオリの選定がされた時点では、受注生産のためホールのオープンまでに製造が間に合わないということでした。幸運なことに、2003年10月に来日コンサートのためにチッコリーニがイタリアで選定して日本に運んできたピアノならば間に合うということで、コンサート後にさくらホールの所有となりました。チッコリーニが選んでミケランジェロと名付けたピアノという点も特別なピアノで、私たちの誇りです」


「自主事業では積極的にファツィオリを活用しており、『オープンピアノDAY』は、年に4、5回開催しています。1時間3,500円でファツィオリともう1台は別メーカーのピアノを舞台に2台並べて自由に弾いていただけるイベントです。回を重ねるごとに人気が出てきて最近ではすぐに予約が埋まってしまいます。一般の方も演奏家もファツィオリを弾きたいという方が増えていて、東京からもいらっしゃいます。希少なピアノは北上市の地域資源です。当時の選考委員の皆さんの先見の明によって今助けられています」と、実感を込めて話す千葉氏。

さくらホールは開館から18年を迎え、新たに設備をリニューアルする時期を迎えている。その際も「誰のために、何のために」という視点を大事に設備や機器の選定を行なっているという。最後に、これからオープンするホールや新たな設備を検討しているホールへのアドバイスを求めた。
「音楽や芸術の世界は特殊なものと思い込んで、専門家の意見を鵜呑みにしてしまうことが多いかもしれませんが、それが本当に市民のためになるのか、喜んでくださるのかと改めて問うことが大事だと思います。また、当時さくらホールにファツィオリを選んでくださった方達のように、少し先を見て選ぶことが大切だと思います」

「東北全般にそうですが、北上の人は粘り強くて口下手なところがあります。特に男性はお酒を飲まないと何も喋り出さないのですよ」と、多くは語らない北上人の気質を笑いながら話してくれた千葉氏だが、すでに氏は北上人になっていると言っても過言ではないのだろう。饒舌には語らずとも、長い年月を経てもブレることなく実績を重ねるさくらホールと千葉氏の姿を通じて、北上の人々の熱い想いを感じることとなった。これからも、北上の文化芸術活動を支えるさくらホールに期待していきたい。

第18回ショパン国際ピアノコンクール レポート ワルシャワにて

2021年の第18 回ショパンコンクールは弊社にとって、大きな喜びで終わりました。
ファツィオリピアノをコンクール全ラウンドで演奏したBruce Xiaoyu Liu(ブルース・シャオユー・リウ、劉曉禹)が見事優勝を飾り、Martin Garcia Garcia (マルティン・ガルシア・ガルシア)が3位、Leonora Armellini(レオノーラ・アルメリーニ)5位と、ファイナルに進出したファツィオリ奏者3名全員が入賞を獲得したからです。ガルシアはコンチェルト賞も受賞しました。

ファツィオリ社が国際コンクールにデビューしたのは2010 年の同第16回コンクールでした。当時コンクール経験のない本社に委託され、日本チームが調律、アーティスト・リレーションなど全面的に担当しました。この時は、4名がファツィオリを選び、3名がセミファイナルに進出、ダニイル・トリフォノフが3位を勝ち取りファツィオリの音色の美しさを世界中に届けました。
その後、ファツィオリは数々の国際コンクールを経験し、今回のショパンコンクールでは、コンテスタントの8名がファツィオリを選定し3名がファイナルに進出、全員入賞・優勝を獲得しました。

非常に多くの方がネットで素晴らしい演奏を鑑賞されましたが、現地でサポートに当たった弊社アレック・ワイルより、コンクールの臨場感とエピソードをお届けしたいと思います。

コンクール会場

コンクールの会場となるワルシャワ国立フィルハーモニーホールは、約1,200席とあまり大きなホールではなく、ピアノからかなり近いところに審査員の席が設けられています。そのため、審査委員は非常に小さなピアニッシモでも良く聴こえる反面、些細なことも聞き漏らさず、わずかな違和感を煩わしく感じる可能性があります。

レオノーラ・アルメリーニのコンチェルトのリハーサル時に審査員席より舞台を撮影


また、世界中で沢山の方が楽しんだコンクールの配信を実現した高い音声・録音技術の一端を写真でご紹介します。ピアノ横のマイクスタンドだけではなく、ピアノの上、そして客席の天井からいくつものマイクが下がっています。しかし、マイクロフォンのバランスは難しい技術であり、いかに素晴らしい録音も、生演奏の素晴らしいシミュレーションであるという事実には留意すべきだと思います。ファツィオリに関しても、ホールで聴いた場合と後日ネット配信で聴いた場合を比べると微妙な音色の差を感じます(勿論、これは録音に付随する普遍の特性ですね)。


夜中の調律

ピアノコンクールの調律は基本的に夜中に行われるため、調律師にとって期間中は非常に過酷です。コンクール使用ピアノは5台のため、調律時間は5等分でローテーションという短い作業時間、常に変化するスケジュール、演奏中はホールで演奏中のピアノの音色を観察、と寝る時間も限られます。また、普通のコンサートと異なり、演奏前にピアノを触ることは許されないので、技術者はピアニストからの直接のフィードバックがない中で調整しなければなりません。

今回のファツィオリ調律師は本社より派遣されたOrtwin Moreau(オルトウィン・モロー)でした。コンクールHPに調律師のリストが表示され、「他のピアノ会社の技術者は数人なのにファツィオリは一人で可哀想」というコメントを多く頂きました。しかし、調律は手分けして行うわけにはいきません。ピアノの状態を適正に一貫した状態に保つために、一人の調律師が手掛けることは重要です。オルトウィンさんは最初から最後まで(3日間の入賞者コンサート中も)ずっと一人で作業を行いました。3日の入賞者ガラコンサートの終了後「これで全ての仕事が完了しました」というメールをもらいました。本当にお疲れ様でした。

第3次発表を待つ間の食事。右から、ブルース・リウ、オルトウィン・モロー、ポーランド代理店の技術者

夜中に作業中のオルトウィン・モロー

ショパン協会HPの調律師リスト


ピアノ庫

ホールのピアノ庫は舞台の下です。舞台のエレベーターでピアノを上げ下げします。
古いホールですので、10月という時期には温湿度変化がかなりあります。ピアノも冷えるし、次第に乾燥していくので、これに対する調整が必要とされます。調律はこのエレベーターで舞台に上げ、舞台の上で行われます。

舞台の下のピアノ庫で出番を待つピアノ

エレベーターで舞台に上げられて行くピアノ


ファツィオリのファイナリスト達

ファイナルの12名中の3人がファツィオリを弾きました。ファイナリスト達の素晴らしい経歴は皆さんご存知のことと思いますので、期間中に垣間見た彼らのパーソナルな面をご紹介します。

レオノーラ・アルメリーニは、2010年のコンクール時に初めて知り合いました。当時から非常に温かくフレンドリーな人です。チェロ奏者の双子の弟さんが付き添いで来ていました。


マルティン・ガルシア・ガルシアもビデオなどで紹介されている通り、明るく朗らかな人柄で、(見た目の印象より遥かに)思慮深い人です。お兄さんのダニエルさんが一緒に来ていました。ダニエルさんは弁護士で、マルティンをずっとサポートしています。

ファイナル演奏直後のマルティン・ガルシア・ガルシア

マルティンのお兄さんのダニイル・ガルシア・ガルシア(左)と
伊ファツィオリのコンクール責任者ルカ・ファツィオリ(右)


ブルース・リウは、舞台を降りるとユーモラスでリラックスした人です。3次の結果発表が遅れた時に、ドキドキしで待つのではなく、「もう寝る」と言って部屋に戻りました。いつも夜遅い最後の出番なので、その晩はグッスリ寝て、翌朝に結果を知るというパターンだったようです。

ブルース・リウ

ファイナル演奏終了後、食事をしながら結果発表を待つレオノーラ・アルメリーニ、ブルース・リウ、アレック・ワイル


ライバル同士でも仲良し

コンクールでは当然ながら優勝者もいれば、入賞できない人もでてきます。しかし、ピアノコンクールの参加者はとても仲が良いように思えます。

音楽コンクールの場合、スピードや音量など基本的に計れるものはなく、アーティストは芸術性を競い合います。そして、芸術には「絶対的なもの」はありません。競い合いながらも互いの個性的な芸術性を認め、讃え合います。その結果、各自が得られる喜びはさらに大きなものとなり、ライバル同志であり仲間という素敵な関係が築かれているように思います。

リセプションで和気あいあい


最終結果

トリのブルースのコンチェルト演奏の後で、コンクールの結果を待ちました。
いつも発表はホールのロビーで行われます。

今回も最初はロビーで待っていましたが、発表までに非常に時間がかかったため、ホール内に移動して座って待ちました。

ロビーでの発表を待つ人々

発表を待つ、左からファツィオリ調律師オルトウィン、マルティン、ファツィオリ創立者パオロ・ファツィオリ

ホールでファイナルの結果を待つパオロ・ファツィオリ


最終的に、予定より数時間遅れて現地時間の朝2時過ぎに発表がありました。その後、入賞者たちは翌日から3日間にわたるガラコンサートの説明も聞き、その晩は誰も寝る時間がありませんでした。

ファイナル結果発表


翌日は入賞者ガラコンサートです。会場は、オペラハウスに場所を移しました。そのため、ファツィオリのピアノは夜中に移動され、朝6時から8時の間にオルトウィンさんが調律を終えた後、演奏者はホールで約10分間づつリハーサルの時間が与えられました。
入賞者ガラコンサート初日はポーランド大統領出席の下、ピアノは一台のみ、全員ファツィオリでの演奏となりました。
2日目、3日目のガラコンサートはコンクール会場に戻り、各自コンクール中に弾いたピアノで演奏しました。

第18回ショパン国際ピアノコンクール入賞者ガラコンサート第1日目の演奏はこちら。

YOUTUBE:The 18th International Fryderyk Chopin Piano Competition, first prize-winners' concert, 21.10.2021

ガラコンサートに向けてわずかな時間でリハーサルを行う入賞者達


ガラコンサートはワルシャワ民にとって非常に特別なイベントです。オペラハウスは、特別なイベントに相応しい格式高く綺麗なホールで、フォーマルな装いで来場する方が多いくいらっしゃいます。


最後に・・・

ショパンコンクールのお蔭で、初めて聴く素晴らしいピアニストに出会う経験をされた方も多いでしょう。ショパンやピアノ音楽が世界的に脚光を浴び、ファツィオリも多くの注目を頂きました。皆様に心より感謝を申し上げます。今後、日本でも入賞者ガラコンサートと単独コンサートが開かれる予定です。多くの方が素晴らしいピアニスト達の演奏を直接会場でお聴きになれることを願っています。

同時に、入賞を果たすことができなかったピアニスト達も素晴らしく、多様な音楽を楽しませてくれました。
私から、その中の一人の演奏家をご紹介します。

Aleksandra Swigut(アレクサンドラ・スヴィグト)はポーランド人のピアニストです。2018年に行われた第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールでは第2位に入賞しました。現在、ワルシャワのショパン音大で教鞭をとっています。今回のショパンコンクールの数週間前に彼女は論文を完成させ、博士号を取得しました。彼女の論文テーマは「ショパン時代の楽器での演奏」です。ショパンに関してこれほど学究的な造詣を備えた演奏はないのではないかと思えるほどに、他と比べて、かなり異なる演奏スタイルを持っています。
素晴らしいアーティスト達をこれからも応援していきましょう!

Aleksandra Swigutの1次の演奏はこちらでお聴きになれます。

YOUTUBE:ALEKSANDRA ŚWIGUT - first round (18th Chopin Competition, Warsaw)

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